変調という難題:なぜ我々はNLM Photonicsに投資したのか
Pangaea Venturesは、NLM PhotonicsのシリーズA追加ラウンドへの参加を発表できることを嬉しく思う。本ラウンドには、新規投資家であるMitsubishi Chemical Corporationの投資部門であるDiamond Edge Venturesに加え、既存投資家のEmerald Technology Ventures、出光興産、東京応化工業、Oregon Venture Fund、StoryHouse Venturesが参加。今回、PangaeaのDavid WeekesがNLMの取締役に就任することとなった。NLMによる発表全文はこちら。以下、投資の理由を述べる。
AIインフラをめぐる議論は、最終的に必ず電力の問題に行き着き、それは周知の事実として認知されている。だが、その多くはGPUで議論を留まる傾向にある。より顕著な制約は、もう一段下の層、すなわちチップ間・サーバー間・ラック間でデータを運ぶ光学部品に存在する。一部の試算では、ネットワーキングがデータセンターの消費電力全体の最大50%を占める とされている。モデルが大規模化し、より多くのアクセラレータが協調して動作するようになるにつれ、データを動かすためのエネルギーコストは、それが支える計算そのもののコストよりもより上昇している。
プラガブル光トランシーバの内部には、この傾向がどこまで続くかを左右する決定的な部品がある。電気信号の形をとったデータを光に載せる、電気光学変調器である。シリコンフォトニクスはプラズマ分散効果によって業界をここまで牽引してきたが、この効果は100 Gb/sを超えると効率が著しく低下する。縮小し続ける電力予算のもとで200 Gb/s、さらに400 Gb/sに到達するには、根本的に新しい材料が不可欠となる。
2018年にワシントン大学からスピンアウトしたNLM Photonicsは、まさにこのボトルネックを解消する材料を開発した(そして我々は、その事業化を後押しすべくシリーズA追加ラウンドへ投資)。
ポリマーではなく、ガラス
有機電気光学(OEO)材料は、新しいアイデアではない。基礎となる物理は数十年前から理解されており、性能面でも申し分なかった。過去の試みで問題となった点は熱安定性である。ポリマー系のプラットフォームは熱によって発色団(クロモフォア)の配向を失い、OEOという分野には、公正であるか否かは別として、そうした評判が定着してしまった。
NLMの独自材料であるSelerion™は、ポリマーではなく、架橋された熱硬化性(サーモセット)ガラスである。低分子の前駆体をスロット導波路に成膜し、加熱しながら電界下でポーリングする。この一工程で発色団が配向すると同時に架橋が進み、緻密なネットワークが形成される。配向は化学的に固定される。
我々を納得させたのは、その結果である。Selerion™デバイスは85℃で数千時間動作させても測定可能な劣化を示さず、Telcordia GR-468 認定シーケンスの一部である85℃・相対湿度85%のダンプヒート試験にも合格し、10年を超える動作寿命が見込まれている。200 Gb/sにおける変調効率は標準的なシリコンフォトニクスの10倍以上であり、量産ウェハ上で第三者によって検証されている。デバイスレベルでこの水準に到達した有機電気光学材料は、これまで存在しない。
こうした結果に加え、実装面積とエネルギー消費も極めて魅力的だ。NLMの材料に内在する変調物理により、相互作用長はシリコンの5〜10 mmに対して数百マイクロメートルで済む。ダイは40%小型化され、ビットあたりのエネルギー消費は20~50%低減されています。
材料は最後に載せる
二つ目の理由は、材料をデバイス製造のどの段階で組み込むかにある。薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)、リン化インジウム、チタン酸バリウムは、いずれも優れた電気光学特性を備えている。しかし、どれもファブ側に専用のフロントエンド設備の構築を求める。これに対しNLMの材料は、標準的なシリコンフォトニクスのウェハ工程が完了した後に、表面活性化・成膜・封止・ポーリングというプロセスで適用され、フロントエンドへの変更を一切必要としない。
そのためファブは他の材料への汚染を懸念する必要がなくNLMが構築したソリューション採用のハードルが比較的低くなると考える。8レーン×200 Gb/sで構成される1.6 Tb/s送信用PICは、Enosemi(AMDが買収)と共同設計され、AMF(GlobalFoundriesが買収)の標準200mmウェハで製造され、Tier 1のAI顧客向けにCentera Photonicsへ納入され、OFC 2026で実証された。レーンあたり400 Gb/s版はすでにテープアウトを終え、現在は他の顧客向けにサンプル出荷が進んでいる。
ファブは競合からは買わない
光通信のサプライチェーンは、ファブ、OEM、設計会社、材料サプライヤーの間で数十年かけて築かれた信頼の上に成り立っている。チップを売り込むスタートアップは、これらの企業に多大なリスクを負うよう求めることになる。NLMのビジネスモデルは、材料・プロセス・デバイスのIPをライセンス供与するという形をとることで、この構図を巧みに回避している。このアプローチは、リスク回避的な顧客やパートナーのロードマップとはるかに整合しやすい。
顧客からCEOへ
Brad Boothは、そのキャリアの大半をこの取引の買い手側で過ごしてきた人物である。Microsoftではハードウェアアーキテクチャグループのプリンシパルネットワークアーキテクトを務め、MetaではクラウドおよびAIデータセンター向けの光接続に携わった。さらに、トランシーバのロードマップが議論される標準化団体にも長年関与してきた。
彼は、ハイパースケーラーが何を仕様として求めるのか、それがおおよそいつになるのか、そしてどのような主張が独立したデータなしには受け入れられないのかを知っている。
技術面の連続性は、共同創業者兼CTOのLewis Johnsonが担う。彼はワシントン大学の博士課程で基礎となる化学を手がけ、中核となる特許の共同発明者でもある。Johnsonは発色団の合成からシステムレベルのPIC設計までを一貫して手がけており、成膜プロセスのスケールアップも彼の直接の関与によって前進してきた。
買い手は何に対価を払っているのか
シリコンの限界を最も痛切に感じているのは、サプライチェーンの最も川下に位置する企業であり、実際にその多くがすでに行動を起こしている。MarvellはCelestial AIを32.5億ドルで買収したが、意味のある売上が立つのは2028会計年度以降と見込んでいる。AMDはEnosemiを、MolexはTeramountを買収し、MarvellはPolaritonも買収した。いずれも、動きの速い過熱した市場における長期的な価値創出の可能性を見出したものであり、売上が立つ何年も前に値付けされている。我々は、NLMが材料の信頼性を実証した暁には、フォトニクスの本格的な普及にとって同様に不可欠な買収対象になると考えている。
この技術がスタックのどこに位置するか
フォトニクスとネットワーキングは、Hakuhodo DY Holdingsとの共同調査である『The Hard Tech Report 2026』で扱った6つのセクターの一つであり、我々が「Transformative(変革的)」と評価するセグメントの集中度が最も高い領域の一つでもある。コパッケージドオプティクス(CPO)もその一つで、TSMCのCOUPEプラットフォームは本年中に量産に入る。CPOは小型かつ電力効率の高い変調に厳しい要求を課すが、そこでは数百マイクロメートルの有機ガラスが、数ミリメートルの無機結晶に対して構造的な優位を持つ。
同レポートはまた、この層においては日本の材料サプライヤーが主導的な立場に立ちやすいと論じている。NLMの投資家構成はそれを反映している。大手フォトレジストメーカーである東京応化工業(TOK)は2023年から同社を支援しており、浜松ホトニクスおよび出光興産とともに、NLMの材料を用いた市販可能なインクの開発で協業している。
我々は投資機会を「Transformation Potential(変革ポテンシャル)」という尺度で評価する。すなわち、性能向上の大きさ、その技術領域に於ける価値の規模、そして一度採用された後にその領域においてどれほど不可逆的な技術となるか、という三点である。変調器は各レーンが運べる容量を規定するため、価値はそこに集中する。そして、ファブのPDKに書き込まれたプロセスモジュールは、そう簡単には外せない。外すとなれば、その上に構築されたすべての設計を描き直さなければならないからだ。
今動くべき理由を最も強く裏づけるのが、この不可逆性である。業界は今、レーンあたり800 Gb/sを超える領域を何が担うのかを決めようとしており、その決定は今後何年にもわたってプロセスキットと製品ロードマップに固定される。エネルギー面の計算も単純明快だ。ビットあたり20〜50%の電力削減が、年間数億個規模のトランシーバに適用されれば、AIインフラが電力網から引き出す電力を実際に減らすことになる。
NLMには、信頼性のデータがあり、顧客向けPICがあり、既存プレイヤーが「イエス」と言えるビジネスモデルがあり、化学と買い手の双方を理解するチームがある。Brad、Lewis、そして同チームをPangaeaとして全力で支援していきたい。